好きな映画監督を3人挙げるとしたら、ペドロ・アルモドバル、ウォン・カーウァイ、そして先日旅立った鈴木清順。どの監督の映画も、観た時代にグサッとクサビを打ちこんでくれるような、印象的な作品がたくさん。
アルモドバル監督に関しては、お気に入り作品数々あれど、ダントツで大好きなのが「ハイヒール」(原題:Tacones Lejanos 1991年)。母と娘の愛憎と確執を、原色溢れるコテコテのラテンフレーバーで描いた作品。色彩、ストーリー、女優さんたち、どれをとっても極上の濃さ。加えて音楽もラテン感たっぷり、中でも素晴らしいのが主題歌 "Piensa En Mi"。
娘に充分な愛情を注ぐことができず、女として生きる道を選んだ歌手である母が、娘への懺悔の気持ちをこめて歌うシーンで使われる。母がステージにひれ伏したときの、背中の無数のシミ。日本人に比べて、ヨーロッパ人はシミが多い傾向があるにしたって、すごい迫力だったなぁ。男の顔は履歴書って言うけど、女の背中も履歴書なんだな、きっと。
ま、それはさておき、劇中では、母役のマリサ・パレデスが歌っている設定だが、実際に歌っているのは、今回ライブに行ったLuz Casal。
Luzはもともと骨太系ロックシンガーだったが、最近はジャズを歌っている。そんなにメジャーな存在ともいえない彼女が来日すると聞き、少し迷ったが、行くことにした。食べられるときに食べておく、観られるときに観ておく、これが鉄則。
さすがにロックシンガー時代のヒット曲は演らなかったけど、"Piensa En Mi"は歌ってくれた。ギターのイントロが聞こえてきたとき、映画「ハイヒール」のステージのシーンが蘇ってきて、思わずうるうる。
Luzの背中は、映画のシーンよりずーっとキレイだった。強烈なスペイン語訛りの英語、懐かしかったな。スペイン(プチ)留学中の思い出が次々蘇ってくる。
あんまり声出てなかったし、アンコール合わせても1時間弱のステージだったので、不完全燃焼感は残ったけど、時代時代に聴いてた音楽があって、こういうキッカケで思い出が蘇ってくるのは、かけがえがないって改めて思う。やっぱり No Music, No Life なんだよね。
2017.5.13(土) @ブルーノート東京