1997年。忘れ去られていた古き良きキューバ音楽が、ライ・クーダーによって「再発見」され、かつてキューバで活躍していたミュージシャンたちが、再び脚光を浴びた。ヴィム・ヴェンダースによってドキュメンタリー映画が作られ、アカデミー賞にもノミネートされた。その名は『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。
日本では2000年に公開され、大ヒット。映画に出演したメンバーたちが続々来日し、キューバ音楽のみならず、ダンスや料理、観光など、「遠くにある社会主義国」だったキューバが、大注目されるキッカケになったのだ。もちろん日本だけではなく、世界的に。
あれから18年。何人かのメンバーは、天国へと旅立っていった。この作品『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』は、ステージ活動に終止符を打つと決めた、残されたメンバーたちの最後の世界ツアーに密着したドキュメンタリー。
ただし、ツアーだけのドキュメンタリーではない。亡くなったメンバーも含め、子供時代や修行時代の思い出、革命後の生活、人生観に至るまで、人生の大先輩たちの珠玉の言葉に満ち満ちている。
90歳を超えて再び大注目されたギタリスト、コンパイ・セグンドの言葉。「大事なコトは2つ。一つはやり過ぎないこと。チキンだって、たくさん食べたら飽きる。少しだけ食べておけば、次の日も欲しいと思うだろう。もう一つ大切なのは、愛だ。チキンと一緒だよ」。
「ホセ・マルティは言った。人生でやらなければいけない3つのこと。木を植える。子供を作る。本を書く。オレは全部やった。人生に満足してるよ」。
オバマ大統領がキューバとの国交を正常化し、なんと!レジェンドたちはカーネギー・ホールで歌った。歌姫オマーラ・ポルトゥオンドは言う。「オバマ大統領は黒人と白人のハーフなの。あたしと同じようにね」。
トランプが大統領になってから停滞しているけど、時間はかかっても、キューバとアメリカはきっともっと仲よくなっていくはず。もっと仲よくなっていけばいいなぁ(希望)。
オマーラとコンパイは、2000年代前半に来日した時、ライブを観た。オマーラは一列目のかぶりつき。気高く、凛とした姿が約1.5メートル前に存在していて、緊張しまくったっけ。コンパイはお気楽でユーモアたっぷりで、客席の女のコをステージに呼び、楽しそうに一緒に踊ってたなぁ。
映画が終わり出口に向かう途中、近くにいた若い女のコが、隣りの席の人が号泣してたと話してた。わかるわ〜、泣きたいほどの感動だったもんね。あたしはこの曲で極まった。2009年にキューバに行ったとき、帰りの便を待つ空港のロビーでこの曲が流れたときは、映画の主人公になりきった。
"Como Fue" Buena Vista Social Club - Como Fue - feat. Ibrahim Ferrer - YouTube
ふと思っただけのコトだけど、オマーラはイブライムのことが好きだったんだな。
彼らのラスト・アルバムは"Lost And Found"。長く生きていると、失くしていくものがある。そして見つかることもある。何を失くしたかに気づき、これからどう生きていこうかと模索する大切さを考えるタイトルに思える。
あと18年経ったら、あたしはいくつ? これからは猪突猛進じゃなくて、ゆったりと今までやってきたことを振り返りつつ、木を植えられるように、1日1日を大切に生きていきたい。
たまたまラジオから流れてきたこの曲を耳にしなかったら、この映画は見過ごしちゃったかも。ちょっと運命的なものを感じたりする今日この頃。でもこの曲、エレガントでトロピカル、ステキな曲だけど、歌われているのは奴隷の嘆きなんだよね。この映画では、キューバの歴史も語られている。明るくて、音楽に溢れているイメージの国だけど、厳しい過去もあった。
そして、次の世代へと受け継がれていく未来も描く。抱きしめたいほど愛おしい映画。
"Bruca Manigua" Buena Vista Social Club - Bruca Manigua - Live - feat. Ibrahim Ferrer - YouTube
(敬称略)
追記:ポルトゥオンドと入力したら「ポルトゥ音頭」と変換され、思わずクスッ。でも音頭で検索したら、実にオマーラにピッタリ!