(ちょいと時間が経ってしまったけれど) 10/30〜11/8 東京国際映画祭が開催された。今年から日比谷・銀座エリアに移転。ラテンビート映画祭との共催上映もあり、『箱』と『リベルタード』を観ることができた。どちらもラストシーンが印象的な、深くて繊細な作品だった。
『箱』The Box[La Caja] 監督:ロレンソ・ビガス/出演:エルナン・メンドーサ、ハツィン・ナバレッテ、クリスティーナ・ズルエタ/2021年/ドラマ/アメリカ・メキシコ合作/93分/カラー
第18回ラテンビート映画祭|LATIN BEAT FILM FESTIVAL 2021
箱 - クリップス|The Box - Clips|第34回東京国際映画祭 34th Tokyo International Film Festival - YouTube
ロレンソ・ビガス(監督/脚本/プロデューサー)『箱』TIFFトークサロン - YouTube 監督のロング・インタビューがYouTubeで見られるなんて、いよいよ未来が現実になってきた気がする。(ただし、ネタバレ)
『リベルタード』Libertad 監督:クララ・ロケ/出演:マリア・モレラ、ニコール・ガルシア、ノラ・ナバス/2021年/ドラマ/スペイン・ベルギー合作/109分/カラー
第18回ラテンビート映画祭|LATIN BEAT FILM FESTIVAL 2021
リベルタード - 予告編|Libertad - Trailer|第34回東京国際映画祭 34th Tokyo International Film Festival - YouTube
クララ・ロケ(監督)『リベルタード』 TIFF TALK SALON Clara Roquet (Director) ”Libertad” - YouTube
こちらの作品も、監督のロング・インタビューがYouTubeで見られます。(これまたネタバレ)
スペクタクルもなく、超有名俳優が出演することもなく、派手さもないけど、人間を奥底まで緻密に描いた作品たち。どこかで見かけたら、ぜひ観てみて!多様性が語られる時代になったけど、映画や音楽、世の中全体が保守的になっていると感じる人は大勢いるはず。これら2本の作品に限らず、ビジネス目的ではなくメッセージを伝える、丁寧に作られた映画はゆっくりと世界を変えていく、静かなパワーを持っていると思います。
【超ネタバレ あらすじ 監督ロング・インタビューなど】どちらの作品も一般公開されるかわからないけど、いつかどこかで見ようと思っている人は読まないでにゃ。観た印象で書いているので、主観的だったり、正しくないかもしれません。ご了承くださいませ。
『箱』あらすじと監督のロング・インタビュー 長距離バスのお手洗いから物語は始まる。少年は糖尿病の祖母の代わりに、父親の「遺骨」を引き取りに行く。が、ある町を通過中、バスの窓から父親そっくりな男を見つけてしまう。
名前を訊くが、まったく別の名前を答える男。男が父親ではないか?という思いを捨てられず、少年は彼の家を突き止め、訪れる。男は妊婦と一緒に暮らしていた。そして少年は男の家で暮らし始める。いったん引き取った遺骨は「間違いだった」と返却。
男の仕事は貧しい人々を工場に斡旋するブローカーだった。ひとりの女性が従業員を扇動しようとしていることがわかり、男の一派はその女性を殺害してしまう。
行方がわからなくなった娘を探す母親が、工員たちに聞きまわり始めた。快く思わない男たちは、母親を脅迫する。「警察に行くようなことがあれば、殺す」。
しかし母親は、警察に行ってしまう。
そして少年が、母親を殺してしまう。
妊娠していた男の妻は出産し、赤ちゃんが産まれた。少年は再び遺骨を引き取りに行く。「間違いじゃなかったのね」。そう言いながら、担当者は遺骨を少年に引き渡す。
少年はバスに乗って祖母が待つ、自分の家へと帰っていく。
書いていても、思い出すと背筋にすーっと寒気が走るような映画。
曇り空の下どこか陰気な空気、アメリカのハイウェイ沿いの町のような雰囲気が漂い、休火山のような山が見えるロケ地は、検索しないことに決めた。ほとんどのコトが検索すればわかってしまう今の世の中だし。
しかしYouTubeで監督のロング・インタビューを見てたら、あっさりわかってしまいました。 メキシコ北部チワワ州のシウダ・デ・フアレス(Ciudad De Juárez)。リオ・グランデ川を挟んで、向かい側はテキサス州エル・パソ。アメリカ国境沿いなので、多くのカルテルがあり、治安もよくないんだそう。メキシコで一番工場が多いエリア。
監督、脚本、プロデューサーのロレンソ・ビガスはベネズエラ人だが、メキシコ在住21年。実在の工場で撮影したかったが、工場内部のライン等々を見せるのを嫌がる持ち主が多かったため、難航。破産した工場が場を提供してくれることになり、リアルな工場での撮影が実現したそう。この工場、乾いていて、働く人の無表情さに寂寥を感じた。
主人公の少年に関しては、演技をしない子供をメキシコシティで探しに探したけど見つからず、やっと見つけたんだそう。
監督のロング・インタビューを見なければ、撮影場所も背景も知らないまま。今、よく理解しているかどうかはともかく、もっと理解していないままだった。やっぱり監督の言葉で映画を語るインタビューが見られたのはありがたい。メキシコには何度も行ったし、いろんな街、町、村にも行ったけど、アメリカ国境沿いには行ってない。これからいろんなカタチで追体験して、深めていけたらいいなと思った。
『リベルタード』私的なスペイン体験と監督のロング・インタビュー この作品もロケ地が気になった。監督のロング・インタビューでは、舞台になったのは コスタ・ブラバ地方(Costa Brava) という地中海に面したリゾート地だと言っていた。バルセロナから約150km、フランス国境に面したエリア。
監督のクララ・ロケは、子供時代と10代の頃、毎年、夏を過ごしていたんだそうだ。
別荘を抜け出した少女たちが、街の中心に行くシーンを見ていて、昔々、スペイン アンダルシア地方のマラガという街にプチ留学していた頃、知り合ったスペイン人学生の実家がある※Marbellaというリゾート地に遊びに行ったことを思い出した。
リゾート地特有の開放的な空気、港町独特の猥雑さ、声をかけてくる男のコたちの剥き出しの欲望、ボートでのショートトリップ...。日本でいえば『八月の濡れた砂』?(ちょっと違うかにゃ)
監督のロング・インタビューより
・以前、El Adiós (別れ)という短編映画を撮った。アルツハイマー病だった(実の) 祖母と、コロンビア人の介護者の関係を見ていて、いろいろと思うことがあり、また自分がいかに恵まれているかという思いもあり、この作品『リベルタード』を撮った。介護者たちは、自分の子供を母国に残して、赤の他人を介護するというトラウマを抱えていた。
・短編では高い評価を得てきたが、この作品が初長編。
・この作品のテーマは、アイデンティティと階級。
・祖母の死は、ひとつの世界の終わり。ひとつの時代の終わり、そして家族の時間とアイデンティティが終わっていく、ということ。
・死ぬということは、自由になるということとも言える。
・自由とは?自分の時間をどう使うかを決めることができなかったら、本当に自由なのか?
・最終的にはリベルタードだけが、自由になれなかった。ちなみにリベルタードは、スペイン語で「自由」という意味。
ラストシーン。新学期が始まったら、同じ学校に行こう!と話していたノラとリベルタードの約束は果たされなかった。リベルタードの母はコロンビアに帰ることになり、リベルタードも一緒に母国に戻ることになった。家族でクルマに乗って去っていくノラを、見送るリベルタードと母。
映画祭に出品されるマイナーな作品は、情報が少ないことが多い。なので、YouTubeで監督インタビューがゆっくり見られるようになったのは、本当にありがたい。理解できなかったコトは反復できるし、監督の表情もよくわかる。コロナ禍でいろいろキビシイことが多かったけど、オンラインで得られる情報が格段に増えたのはよかったコトのひとつ。
※Marbella:スペインのスペイン語の発音はマルベージャが近いけど、日本の呼び名はマルベーリャが一般的らしい。マルベラという表記もあった。