「Yさんが自殺したよ」
いつも淡々と話すその人は、その時も淡々と言った。
「亡くなったの?」
「ああ」
例えば地球に巨大隕石が衝突し、7人だけが生き残るとしたら、Yさんはその7人に必ず入るタイプだと思っていた。仮に何かの間違いで自殺したとしても、途中で木に引っかかったりして、生き延びるタイプだと、何の疑いもなく信じていた。
彼の自殺を教えてくれた人は、予測される原因を少しだけ話した。それにしたって。
いつもテキトーなことばっかり。そんな彼が、真顔で話をしたことを2回覚えている。1回はあたしの数字が上がっていなかったとき、調子はどう?と誰かに訊かれ、グッと詰まったとき。珍しく真剣な表情で言った。
「そういうときは、間に受けなくていいんだよ。ぼちぼちって言っときゃいいんだ」
もう1回は、何かの拍子に彼が「お前は客に信頼されてるな」と、ふっとつぶやくように言ったこと。
その建物を見上げたり、その景色を思い出しながら、こうやって書いていても涙が出るのはなぜだろう。