入場する列の脇に立ち、破ったノートの一頁を持って立つ年配の女性。その紙には、手書きで「どうしても、このコンサートが見たいのです。どなたか譲ってくださいませんか」と書かれていた。申し訳ないけど、譲れないけど、こんなにも観たい人がいるチケットを手に入れたんだから、心して観ようと決意。その女性の脇には、会場係の若いおにいさんが立っていたけど、何も言わなかった。どう見てもダフ屋(この言葉も、もはや死語?)には、見えないもんね。
そんな女性の熱い思いを知ってか知らずか、ライブはサラッと始まった。1曲めは「アジアの純真」。ここから来たか〜。
サングラス、青と白の柄シャツ、アコギを持って淡々と歌う。どことなく漂っているリゾート気分。
席は1階の最後列だったけど、近い!近い!陽水さん、近い!
歌がうまいとか、聞かせるとか、そういうタイプじゃなくて、彼の存在そのものが、神がかっている。
「みなさん、いかがお過ごしでしょうか。最近は湿気が多くて...」ってあたりからMCが始まると、自然と「お元気ですか〜」のコマーシャルを思い出す。
3曲くらい歌ったところで「このくらい歌うと、疲れます」。ステージ上で伸びをしながら「エンターティナーとしてあるまじき行為ですね、フワッ、フワッ、フワッ(笑)」。「そういうつもりは全くないんですけど、国際フォーラムとか、そういう大きなホールで歌う時は、ちゃんとやらなきゃって気持ちになるんですけど、今日は.....ない」(場内爆笑)
「こないだは渋谷もDuoでやりましてね、300人しか入らないんですね。まるで...お誕生会で歌っているみたいで。今日は武道館みたいな気分です」。
ギター、ベース、ドラム、キーボード、そしてご本人、シンプルなバンド編成。全体的に演奏の音が小さいのは、年配者への配慮?
45年前「氷の世界」を出した頃、初めて外国(イギリス) に行った。100円ライターなんてない時代。当時はタバコを吸っていたので、タバコ屋に行き、マッチがなかったので、マッチを手にとって「ハウ・マッチ?」と訊いたのが、初めて英語を喋った、バージ二ティなんだそう。
文字にすると伝わりにくいと思うけれど、MCの独特な表現、間、インスピレーションはすごい。唯一無二。
で、その時、イギリスで買ったギターで歌ったのが「帰れない二人」。
ここで15分の休憩。観客は老若男女、幅広い年齢層だったけど、老が多め、女性の年齢も高めだったので、お手洗いは長蛇の列。3階の隠れ?トイレを教えてもらってラッキー。
休憩後の2曲め(Just Fit)は、サイケでインプロビゼーション的な長〜い間奏があったりしたんだけど、演奏が終わった後で「実は、わたくし、温泉専門でして」なんてゆるーい話が始まり、北海道に行ったとき「さいはて」という名の民宿があったと展開し「そういえば、川沿いホテルっていうのは聞いたことがない」と繋がり、歌ったのは「リバーサイド ホテル」。「ビルの最上階」、歌詞がすごい。アンコール前、ラスト曲は、超ブルース。
なぜ、この選曲?って思いもあったけど、なんでも理由を知る必要はないのでしょう。この空間に居られるコトがしあわせ。前半の曲はトロピカル系、フォークシンガー時代の曲もあり、サイケ、ブルース、隠れた名曲と多面的な構成。
アンコールの2曲が終わると「本日は詰めかけていただいてありがとうございます。なんて堅苦しい挨拶は...」と、最後の最後まで、陽水ワールドがひろがった。
ノートの切れ端を持って立っていた彼女は、ライブを観れたのかなぁ。あたしの隣りは空席のままだった。
2018/05/24@マイナビ BLITZ赤坂
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