Yさんのこと(前編)

とあるアウトソーシングプロジェクト。様々な過去を持つ人々が臨時雇用され(95%が男性)、目標数字を与えられる。1か月ごとの数字を達成しなければ、さようなら。

カオスなのに、至ってお気楽、能天気、明るい人が多い。

「失業者の集団なのに、悲壮感がない」と冷静にコメントした人がいたけど、言い得て妙。

今ほど法律が整備されていなかったので、明日から来なくていい!的なことを言われ、労働基準局に駆け込んだ人も。

「カラアゲ」と言われる架空受注、多種多様な工夫をする人もたくさんいた。昔のこととはいえ、ちょっと書けないようなことばかり。

そんな中で、彼の「工夫」は、どこかかわいく、昭和で、憎めないところがあった。

ネコの名前で大量の申し込みを計上、無料期間が終わる前に全解約して、一言。

「だってウチのネコたちじゃ、使えないもん」

交通費は、定期を持っている区間を各駅停車で降り、営業したことにして、毎日、全額請求していた。

ま、当時、小粒にしたって、似たようなことをしていた人は多かった。それが通っちゃうような時代だったのね。ただ彼みたいにアッケラカンと、大胆に、堂々とは、なかなかできない。

でもそんな時代は長くは続かず、ある日彼は、消えた。

どこどこで仕事している、どこどこで見かけた。いろんな噂を耳にした。彼を知る人は、あたしも含め、人懐っこさとワルが入り混じった独特のキャラを思い出して、懐かしんでいたんじゃないかと思う。

そして長い時間が流れたある日...。

(後編に続く)

 「・・・」(ミッケ)