カオスなのに、至ってお気楽、能天気、明るい人が多い。
「失業者の集団なのに、悲壮感がない」と冷静にコメントした人がいたけど、言い得て妙。
今ほど法律が整備されていなかったので、明日から来なくていい!的なことを言われ、労働基準局に駆け込んだ人も。
「カラアゲ」と言われる架空受注、多種多様な工夫をする人もたくさんいた。昔のこととはいえ、ちょっと書けないようなことばかり。
そんな中で、彼の「工夫」は、どこかかわいく、昭和で、憎めないところがあった。
ネコの名前で大量の申し込みを計上、無料期間が終わる前に全解約して、一言。
「だってウチのネコたちじゃ、使えないもん」
交通費は、定期を持っている区間を各駅停車で降り、営業したことにして、毎日、全額請求していた。
ま、当時、小粒にしたって、似たようなことをしていた人は多かった。それが通っちゃうような時代だったのね。ただ彼みたいにアッケラカンと、大胆に、堂々とは、なかなかできない。
でもそんな時代は長くは続かず、ある日彼は、消えた。
どこどこで仕事している、どこどこで見かけた。いろんな噂を耳にした。彼を知る人は、あたしも含め、人懐っこさとワルが入り混じった独特のキャラを思い出して、懐かしんでいたんじゃないかと思う。
そして長い時間が流れたある日...。
(後編に続く)