ミステリアスな展開なんだけど、一方でロードムービー的だったりもする。主人公の女性が乗るのはレトロなクルマ。検索してみたら「AMCペーサー」というアメリカ産のヴィンテージで、1970年代につくられたそう。個性的で、効率を考えてないよね、って思っちゃうようなデザイン。
そんなクルマで、彼女は海へ、村へ、旅をするから、景色も存分に楽しめる。ただ、映画自体、不穏な雰囲気に満ちているので、景色を楽しむ気分にはならないかもしれない。
彼女は、スペインとの国境と思われる町のスキー場へも行く。この場所がキーポイント。なぜスペイン国境って思ったか?っていうと、ホテルのオーナー夫婦が、スペイン語を話していたから。夫婦で話すときはスペイン語だったから、母国語はスペイン語かも。こういうコトが気になっちゃうので、物語が追いきれなくなったりする。
主人公の娘がピアノを習っているという設定なので、全編でクラシック音楽が流れる。ドラマや映画を観ていてクラシックが流れると、昔々のテレビドラマ『探偵物語』を思い出してしまう...。って、深みが大欠落...とは思うけど、ドラマでクラシック音楽が流れた初体験が『探偵物語』。何事も初めては大事。
ところで、この映画の監督、マチュー・アマルリックは、俳優としても有名で『潜水服は蝶の夢を見る』(2007) の主演俳優なんだそう。
エルの編集長としてきらびやかな生活を楽しんでいた男性が、突然の脳梗塞により、左目と聴力以外の自由を奪われたが、20万回の「瞬き」によって、回顧録を完成させるという実話を映画化した作品。
人間の無限の強さを描く、素晴らしい映画だった。観終わった後、ヴェローチェでお茶した時、コーヒーを頼んで、飲める自由のありがたさを実感したことを思い出した。詳しくは、下記のリンクから 映画.com のサイトへ。
潜水服は蝶の夢を見る 特集: 主演俳優が語る、苦労話と感動のツボ - 映画.com
【ネタバレ・主観に続く】
【ネタバレ・主観に続きます】観る予定がある人は スクロールしないでね
映画の冒頭、ポラロイド写真を並べていた主人公の女性は、夫と2人の子供たちを置いて、突然、家出してしまう。残された夫と子供たちは「彼女がいない生活」をそれなりに送っていく。時々、彼女は家族の様子をこっそり見に行ったりする。でも何が現実で、どこまでが幻想なのか? 理解できないまま物語は進んでいく。
ラストシーン近くで、夫と子供たちはスペイン国境のスキー場で、遭難していたことがわかる。スペイン国境のスキー場は、劇中、何度も登場する。
ってことは、物語の最初と最後以外は、みんな彼女の幻想...ということになるかもしれないけど、いやいやそんな単純ではなく、様々なレトリックが駆使されている。
あれこれ検索していると「1回観ただけじゃ理解できるはずもない」といったコメントが出てくる。複雑な映画なので、逆にネタバレがわかってゆったり観るのもありかも。公開直後はともかく、ネタバレ情報が溢れている昨今、落ち着いてじっくり観てみる。このシーンは何を表現しているのか? この絵は? と考え、味わう。もちろん、複数回の鑑賞もあり。マニアックな映画好きに、ピッタリな作品な気がしてきた。
2022/9月 @ル・シネマ