ウォン・カーウァイの作品が4Kで公開されるという記事を読んだ。「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」「花様年華」...。1960年代と1990年代の香港に会いに行くことにした。
20世紀末に産み落とされたウォン・カーウァイの4つの映画 | ザ・シネマメンバーズ
【読んでいると自然とネタバレするかも】
『花様年華』(2000)
今までに観たすべての映画ベスト10、いやベスト3に入るくらい好きな作品。
最初に出る短い字幕が、この映画のすべてを表している。
「女は顔を伏せ 近づく機会を男に与えるが 男には勇気がなく 女は去る」
本当にたったそれだけのコトなのに、こんなにも惹かれてしまう。暗闇の中、大きなスクリーンで観ていれば、なおのこと。
1962年の香港。
マギー・チャンのチャイナドレスと低い声。
カッコよすぎるトニー・レオン。
トニー・レオンは、とても自然にタバコを吸う。こういうシーンはもう登場しないだろう。
タイプライターの音。
書類を入れる古いキャビネット。
ダイヤル式の電話機。
ナット・キング・コールの大英語訛りのスペイン語の歌が、コロニアルな香港に似合う。
"Aquellos Ojos Verdes" がBGM、食欲旺盛、力強くステーキを食べるマギー・チャン。
雨、トロピカルなスコール...。
好き過ぎると、書けなくなる。この映画の世界観が大好きで、憧れる。もしタイムマシーンに乗れるなら、1962年の香港に行きたい。そしてもし夢が叶うならマギー・チャンになりたい。ずっとじゃなくていいから。と、収集がつかなくなるくらい、魅力的な映画。
恋する惑星(1994) 原題:重慶森林, Chungking Express
映画を観ていたら、あの頃を思い出して、ワクワクした。
主演のフェイ・ウォンが歌う劇中歌「夢中人」を聞くと、気持ちがわーっと駆け上がっていく。
1990年代、まだ啓徳(カイタック)空港があった頃、香港の街中を歩いていると、突然、あたりが暗くなった。見上げると、飛行機が頭上で超低空飛行していた。
啓徳空港は高層ビル群に向かって降下していく、世界一着陸がむずかしいと言われた伝説の空港。「恋する惑星」を観てたら、啓徳空港で着陸するスリルを思い出した。
お巡りさん役のトニー・レオンの部屋に、勝手に侵入するフェイ・ウォンは、今だったらストーカー扱いかもしれないけど、当時はなんだか新鮮で、魅力的だった。金城武は抱きしめたくなるくらいかわいかった。
そういえば、ロケ地になった重慶マンションのゲストハウスに泊まったこともあったっけ。
映画を観るコトは体験のひとつ。ステキな映画を観る体験は無形財産に近いんじゃないか。長い時間を経て、4K化されたこの作品を観ていて、そんなコトを考えた。
香港っぽい英語を聞いて、ブロークンな英語を喋っていたあの頃を思い出して、時代とすべてを抱きしめたくなった。
検索すれば、啓徳空港で着陸する飛行機の動画も、作品の考察も、いくらでも出てくる。だけど!検索は体験じゃないから、思い出を振り返りつつ、新しいコトもまだまだ「体験」していきたいと思う今日この頃。
オマケでもらったステッカー。スマホカバーの中に入れて、ウットリは続く。
(敬称略)
2022年9月 @グランドシネマサンシャイン池袋