【映画・ネタバレあり】『今宵、212号室で』洒落乙で軽妙、とってもフランス的な恋愛映画

 英語タイトルは "ON A MAGICAL NIGHT"。

 結婚して20年、すっかり「家族」になってしまった夫には内緒で、密かに浮気を重ねていた主人公マリア。が、ある日、突然、浮気はバレる。夫と距離を置くため、アパルトマンの向かいのホテルの212号室に宿泊したマリアのもとに現れたのは、なんと!20年前の姿形をした夫!そのうえ、過去のたくさんの浮気相手達までやってきて、不思議な夜が幕を開けた...。

映画『今宵、212号室で』オフィシャルサイト

f:id:megmikke:20200710111915j:image
f:id:megmikke:20200710111911j:image いい意味で、ものすご〜くフランス的な映画。じゃあ、いったいフランス的とは何か? 基本は「皮肉とエスプリ」だと思う。

 『天才バカボン』のボサノヴァ・カバーが斬新だったフランス人歌手 クレモンティーヌ。彼女は自身の著書『クレモンティーヌのフランス案内』で「あなたがパリジャンになるための条件」として、下記11項目を挙げている。20年くらい前に出た本だけど、たった20年でフランス人が変わるわけもなく。

 

1、雨が降ったらすかさず「チッ」と舌打ちする。(できるだけいやみったらしく)

2、夏、クーラーのない部屋では、「暑い暑い」と繰り返す。(たとえその部屋の住人の前でも)

3、長くて寒い冬には、もちろん一日中文句を言い続ける。(とにかくなんにでも文句をつける)

4、仕事は嫌い。

5、ヴァカンス大好き。

6、食べること大好き。

7、おしゃべり大好き。(特に悪口)

8、自分はアーティストだと思う。

9、年をとっても恋をする。

10、自分の幸せを求める。

11、自分らしく生きる。

 

 特に、9、10、11あたりは、この映画のコアになっていると思う。

 それに「もし、あの時、付き合っていたあの人と結婚していたら?」と考えることは、国境を越え万国共通。ひととき、タイムスリップできるかも。

 ちなみに「フランス民法212条」には、こう書かれているそうです。「夫婦は互いに尊重し合い、貞節であり、助け合い、扶助し合わなければならない」。だから、212号室なのね。このあたりも、フランスっぽいなぁ、と思ってしまう。

 マリア役のキアラ・マストロヤンニは、年齢を重ねてから、深みが出てきたように感じる。昭和の日本の女優でいえば、杉村春子のような、噛めば噛むほど味が出るスルメ感が魅力的。

 まだまだ絶賛公開中!ぜひ、お早めに

映画『今宵、212号室で』オフィシャルサイト

f:id:megmikke:20200705215152j:image
f:id:megmikke:20200705215200j:image
f:id:megmikke:20200705215156j:image 

【ここからネタバレ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主人公マリアの20年前の夫、数々の浮気相手たちが現れるだけではなく、夫が当時付き合っていた彼女も、昔の外見のまま現れる。その彼女が、海辺に住むレズビアンになっていたり、その後もきめ細かく描かれている。見落としている「クスッ」や、フランス人的なウィットの数々がありそうなので、配信されたらまた観たい。シャルル・アズナブールのそっくりさんが登場した時は、館内にしのび笑いが。フランス文化をよく知っていると、笑える場面がもっとたくさんありそう。

 ラストシーン。20年前の夫、現在の夫、夫の元カノ、3人が寝ている部屋にそっとカギをかけ、マリアはマジカルな一夜を過ごしたホテルを出る。すると、向かいの自分たちのアパルトマンから夫(もちろん現在の) が、出てくる。何もなかったような顔をして、すれ違うマリアが歩いていく姿で、ストップ。

 続きは自分で考えましょう的なフランス映画っぽい終わり方、好きだなぁ。この作品は基本、アパルトマン、212号室、マリアが歩く雑踏しか出てこないので、お芝居にしてもおもしろいかも。