映画『天国にちがいない』公式サイト
監督自身が新作の企画を持って世界を彷徨う。ノマドのように。ニューヨークでは、友人のガエル・ガルシア・ベルナルに映画プロデューサーを紹介してもらうが、呆気なく却下されてしまう。
映画全編で彼自身が喋るのは、たった二言。ニューヨークでタクシードライバーに「どこから来たんだ?」と、尋ねられた時だけ。
英語、スペイン語、フランス語、アラビア語...。監督自身は喋らなくても、さまざまな人々が、彼に話しかける。さまざまな言語で話す風景が描かれる。
そんなシーンの連なりを見ていたら、いろんな人が喋りかけてくることが、あたしにとっての旅でもあることに気づいた。パリでもニューヨークでも東京23区でも、どこでも。
102分と短い作品だけど、壮大な世界旅行をしているような気分になってくる。ナザレは行ったことがないけれど、妙な既知感がある。昔、訪ねたどこかの町に似ているような。
「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇であるー」。
フライヤーに書いてあったこの一言が、この映画とあたしを結びつけた。日常の小さな出来事に否定的な気持ちになることも、いらつくこともあるけれど、遠くから見たら取るに足らないこと。
コロナ前の作品なのに、コロナ禍に撮影されたように感じたのは、人が少なくて、空っぽなシーンが印象に残ったからかなぁ。この作品、どこかで出会ったら、観てみることをオススメします。
映画が終わり、旅情に浸ったままお手洗いに行くと、団塊世代のおばさまに話しかけられた。
「こっちを押すとお湯が出るのよ」
「映画が好きでしょ? 何の映画を観てきたの?」
『けったいな町医者』という医療の映画を勧められた。
「このお医者さん、尼崎に住んでるの。だからあたしも尼崎に移住しようと思うのよ。ひとりだし」
「あなただってそんなに若くないでしょ?」
「あたしはビールを飲んでいくけど.....」
ズケズケ言いつつ、誘われた。この人と昼間っからビールを飲んだら、おもしろいコトになりそう。新宿ティップネスの閉館が近づいていたタイミングだったので、ご一緒しなかったけど。
ウチでAmazon Prime Video をいくら観ても、こういう展開にはならない。だからできるだけ、今はコロナ禍だから節度を持って、外にはちびちび出たいと思う。
2021/02/23 新宿武蔵野館